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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)68号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実、第一及び第二引用例の方法一の記載内容が審決の理由の要点1指摘のとおりであり、本願発明と第二引用例記載の方法一の発明との異同が同2認定のとおりであることは当事者間に争いがない。

二 取消事由(1)について

1 原告は第一引用例記載の技術内容の誤認を主張するが、(イ)プラスチツクフイルムに印刷を施す場合透明なプラスチツクに水不溶性の印刷模様を設けることが行われていること及び(ロ)第一引用例記載の技術において、金属蒸着層を設けたプラスチツクフイルムとは透明なプラスチツクフイルムに水不溶性塗料による印刷を施したものを指すものであることは原告も争わないところであり、印刷されるプラスチツクフイルムが常に透明なものとは限らないとしても、本願が水不溶性の印刷模様を設けた透明な合成樹脂フイルム(プラスチツクフイルムに同じ)の金属蒸着に関する発明であり、審決はかかる本願発明が公知の技術から容易になし得るか否かの判断をするため、第一引用例について前記(ロ)の場合をその技術内容として認定したものであると認めることができる。したがつて、審決には、第一引用例記載の技術内容につき誤認はない。

2 フイルムに対する金属蒸着が原告主張のとおり、高真空下のルツボ内で金属(例えばアルミニウム)を蒸発飛翔させ、フイルム面上に沈着させて金属光沢による装飾効果を与える技術であることは被告の明らかに争わないところである。そして、第一引用例記載のフイルムの全面に金属蒸着層を形成するベタ蒸着層技術と第二引用例の方法一記載のフイルム面上に部分的に金属蒸着層を形成する部分蒸着技術において、後者が前者より複雑な操作を必要とすることはあるとしても、両者はいずれも前記のようなフイルムに装飾効果を与える蒸着技術自体であることになんら変るところはなく、技術的に共通する点があることは明白である。したがつて、両者の技術を関連づけて考察してもなんら不合理であるということはできない。

3 第一引用例に水不溶性塗料による印刷を施した透明なプラスチツクフイルムに金属蒸着層を設けることが開示されていることは前記1に述べたとおりであり、これによつてプラスチツクフイルム上に印刷模様と金属蒸着層の組合せ模様が得られるものと認められる。他方、審決認定のとおり、第二引用例には方法一の発明につき、プラスチツクフイルム上に水溶性塗料によつて所望の図柄のコーテイング層を設け、その上に金属蒸着層を設ける趣旨が記載されていることは前述のとおり当事者間に争いがなく、これによつてプラスチツクフイルム上に金属蒸着模様が得られるものと認められる。

そして、前認定のとおり、第一引用例及び第二引用例の方法一の各記載の技術は同一分野に属し相互に関連性を有するから、第二引用例記載の方法一の発明において、プラスチツクフイルムとして第一引用例に開示されている水不溶性塗料による印刷を施した透明なプラスチツクフイルムを用いることは当業者の容易に想到できることである。また、これを用いれば、金属蒸着後の水洗によつても水不溶性塗料により印刷されたプラスチツクフイルム上の印刷模様は剥離することなく残存し、結局プラスチツクフイルム上には、第一引用例における印刷模様と第二引用例記載の方法一における金属蒸着模様との組合せ模様が得られることも当業者ならば容易に予測できるものというべきである。したがつて、両引用例により本願発明における審決認定の相違点(1)の構成は容易になし得るものとした審決の判断に誤りはない。

なお、原告は、前掲甲第三号証によつて認められる第二引用例記載の方法二の発明との対比で本願発明の進歩性を争うが、審決は右発明によつて本願発明が容易になし得るものと判断したものではないから、右発明に関する主張はすべて理由がない。

よつて、取消事由(1)の主張は採用することができない。

三 取消事由(2)について

本願発明と第二引用例記載の方法一の発明とが審決の理由の要点2の(2)(請求の原因三、1、(2))において相違していることは当事者間に争いがない。

前掲甲第四号証によれば、本願発明の特許公報の発明の詳細な説明の項には「水溶性コーテイング層の厚さとしては通常〇・五~三μの範囲なかんづく一~二μの範囲が適当であり」との記載(三欄三七ないし三九行)及び「もしかかるコーテイング層の厚さが、三μ以上で形成するときは、コーテイング層上の金属蒸着層の除去は可能であるが、コーテイング層の除去が充分でない傾向があり、ブロツキングや蒸着時にガスを発生するなどの問題がある。また〇・五μ以下で形成するときは、コーテイング層上の金属蒸着層が完全に除去されず、本発明の目的のために好ましくない」との記載(三欄四二行ないし四欄五行)があることが認められ、この記載によれば、本願発明における水溶性コーテイング層の厚さの特定は主として実用上好ましい範囲を定めたもので、格別の効果を奏することを意図したものとはいいがたい。即ち、前掲甲第四号証によれば、本願発明において、水溶性コーテイング層の形成されたフイルムは乾燥された後、右コーテイング層に金属蒸着層が設けられ、かくして得られた金属蒸着フイルムは水洗され、水溶性塗料のコーテイング層及び蒸着金層が除去されるという工程を経ることが認められるところ、原告が右コーテイング層の厚さを特定したことによる特有の効果として主張する請求の原因四、2、(イ)については水溶性コーテイング層の厚さが大であれば乾燥を十分に行つて水系溶剤をほぼ完全に除去することによつても達せられるし、同(ロ)については水溶性コーテイング層の厚さが大であれば水洗を十分に行つて水溶性コーテイング層の除去を完全に行うことによつても達せられるのであつて、原告主張の右(イ)及び(ロ)の効果はコーテイング層の厚さを本願のように特定しなければ、絶対に得られないか又は得ることが困難であるという性質のものとは認めがたく、したがつて、特別顕著なものということはできない。また、原告がコーテイング層の厚さの特定による特有の効果として主張する請求の原因三、2、(ハ)については、前掲甲第四号証(本願発明の特許公報)にそれを裏付けるに足りる記載はないし、本願発明において、コーテイング層の厚さが〇・五ないし三ミクロンの範囲からはずれると繊細で入り組んだ模様を得ることが不可能或は困難となることをうかがわせる証拠もない。

よつて、取消事由(2)の主張も採用することができない。

四 以上のとおりであるから、本件審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

透明な合成樹脂フイルムの片面に、水不溶性の印刷模様を設けたのち、水溶性塗料によつて厚さが〇・五~三μの所望の図柄のコーテイング層を設け、さらに該フイルム面上全面に金属蒸着層を設け、これを水洗してコーテイング層上の金属蒸着層およびコーテイング層を溶解除去することを特徴とする模様付金属蒸着フイルムの製法。

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